2017年09月26日

小さな願い

老人が買い物によく利用する手押し車に、小ぶりなボストンバッグを括り付けてそれなりの横幅になったものが、小さなスーパーの出入り口近くに置いてあった。店に入って来た人が必ず最初に通る通路だ。



 



手押し車の持ち主は、すぐ横のレジに並んでいる白髪の大柄なお婆さん。手には特売のもやしを3袋持っている。私はその二人後ろに並んで、順番を待っていた。



 



通路は狭い。お婆さんが手押し車をもっと自分の方に引き寄せておければまだいいのだが、レジが進む度に移動させるのも大変なんだろうか、放置状態だ。だから、若い人もおばさんもおじさんも、店に入って来た人は皆、カゴを腰の高さまで持ち上げ、手押し車の脇を横向きになって通らなければならない。



 



おばあさんは、後ろに並んでいるおばさんのためにレジ台の上の自分のもやしをどかして場所を作り、その人が買い物かごを置けるようにしてあげていた。「重いでしょう? さあどうぞ」と。そして「私も重くって」とちらりと手押し車の方を見る。置きっ放しなのは仕方ないのよという感じだった。



 



確かに邪魔だ。邪魔ではあるけれど、普通にひとりで歩ける人なら手押し車を避けて通るのは大した苦労ではない。見ていると、誰もがひょいとカゴ(入り口だからまだ空っぽだ)を持ち上げて横向きに通って来る。その当たり前な光景が、なんだかとても愛おしく思えてきた。



 



もしも、通れないような人が来たら、手押し車を移動させる手伝いが必要だ。でも、それよりも、いかにも嫌そうな顔をしてため息をついて見せたり、声に出して「誰だよこんなとこに」とか「邪魔だな」と言う人が来たらどうしよう。その時、おばあさんはどんな対応をするんだろう。謝るんだろうか、開き直って「老人に冷たい」とか怒るんだろうか。



 



どちらにしろ、不機嫌要素はこの場の空気を悪くするんだろうな、いやだな……と、少し心配にもなったけれど、幸い、何も起こらないうちにおばあさんの買い物は終わり、手押し車も去った。



 



平和だった。





沢山の人が黙って避けてくれていたよ、おばあちゃん。




Posted by applause at 12:51│Comments(0)
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